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[Review]アイルトン・セナ〜音速の彼方へ(SENNA)

Posted on: 18/10/2010

 

監督 : アシフ・カパデイア

出演 : アイルトン・セナ

総合評価 : ★★★★ 4.0/5

 

 

 
アイルトン・セナ。
日本では「音速の貴公子」との愛称で呼ばれる彼の名は、誰もが一度は聞いた事があるだろう。
私自身F1が好きで7~8年前から欠かさず見ているので当然彼の事は知っていたが、残念ながらリアルタイムで彼の活躍を見る事は叶わなかった。
彼の名前、そして「伝説のドライバー」であった事くらいしか知らない私のような人間にとって、この映画は彼が一人のF1ドライバーとして辿った歴史を時系順に見せてくれるので非常に得る物が多く、ありがたい映画だった。
逆に彼の活躍をリアルタイムで見ていた人にとっては特に真新しい情報もなく、物足りなく感じるのかもしれない。
映画になっているのが彼の歴史の全て、というわけではないが、それでも彼が「伝説のドライバー」と称される所以が伝わってくる。

映画の中で大きく取り上げられていたのがライバル、アラン・プロストとの対比。
セナのマクラーレン所属時代にチームメイトでありながら最大の敵であったプロスト。
速さはあるが若く無鉄砲で攻めの姿勢を全面に押し出すタイプのセナと、クレバーで堅実、そしてF1における政治の力についてもよく知っていたプロスト。
まさに水と油と呼ぶにふさわしい両者の対立は、本人たちの思惑をよそに大いにF1人気を盛り上げることになる。
プロストと同郷のFIA会長も敵に回し、キャリアの窮地に立たされても決して自分の信念を曲げなかったセナ。走りだけでなく、彼のこういった部分が多くのファンを惹き付けてやまないのだろう。
映画ではまるでプロストが悪役のような描かれ方をしているが、どちらが正義という事はない。プロストが嫌いな人もいればセナの姿勢を批判する人もいるだろう。
ただ1つ言えるのは、お互いがお互いにとって必要な存在であったということだ。セナがあれほどまでに輝いていたのはプロストがいたからだし、逆も然りだろう。彼らの関係はそれぞれ別のチームに所属しても変わる事はなかった。そういう相手に巡り合えたということが一番の奇跡なのかもしれない。
非常にナイーブな人間で、あまり他のドライバー達と良い関係を築けなかったセナにとってプロストは一番人間らしい絆で結ばれた相手だったのだろう。

F1の世界では速さだけでは勝てない、ということを頭では理解していながらもそれを受け入れることは彼にとって苦痛だったのだろう。
レースに自分の100%を注ぎながらも、自身のキャリアの中で最も印象に残っていることは?と聞かれ、F1の世界に飛び込む前のカート時代を思い出し、「あの頃が一番純粋にレースをしていた」と語ったセナ。
彼にとってF1の世界に身をおく事が本当の幸せだったのだろうか。
答えはわからないが、彼が地元ブラジルでのレースで後半マシンにトラブルを抱えながらも気力だけで走りきり、チェッカーを受けた瞬間にただ訳もわからず雄叫びをあげ、そのまま気を失ってしまった映像を見て涙が止まらなくなった。この時の彼は間違いなく満たされていたのだと。
そしてマーティン・ドネリーの大きな事故を目の当たりにしながらも「恐怖と共に自分の夢を投げ捨てることなどできない」と語った彼の強い意思にも胸が震えた。

目を覆いたくなるような結末は変える事のできない現実。彼の死後、一度もF1において死亡事故は起こっていないが、それでもマッサやクビサの事故など、身が凍るようなシーンも何度か見て来た。もう二度とあんな悲惨な事故が起きない事だけを願う。

※内容は文句無しですが、字幕が本当に見づらいのだけは頂けなかった。DVDでは改善されていることを願う。

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