Strategy of…

Archive for 11月 2010

 

監督 : 冨永昌敬

出演 : 浅野忠信、小池栄子、美波

総合評価 : ★★★☆ 3.5/5

 

 

 
冨永昌敬監督が本谷有希子の戯曲、小説「乱暴と待機」を元に脚本を書き、映像化した作品。
登場人物はほぼ四人のみという映画だが、この四人ひとりひとりの演技力がただ事じゃなく、どんどん本谷ワールド、冨永ワールドに飲み込まれて行く。
山田孝之演じる番上は無職で就職活動中の典型的なダメ男。その妻あずさ(小池栄子)は妊娠中の身でありながら自らの経営するバーで働き、年下の夫である番上に尽くしている。
そんな二人がとある一軒家に引っ越してくるシーンから映画が始まるのだが、番上が一人でご近所周りをしている時に奈々瀬(美波)という女性に出会う。上下グレーのスウェットに伊達メガネ、中学生のような2つ結びの奈々瀬に番上は興味を抱くが、実は奈々瀬はあずさの高校時代の同級生であり、浅からぬ因縁のある人物であった。そして奈々瀬が「お兄ちゃん」と呼びながら同居している山根という男(浅野忠信)。しかし彼らは兄妹などではなく、山根は奈々瀬にいつか復讐するという目的のために一つ屋根の下で暮らしていたのだ。そして山根は毎日のようにマラソンに行くと嘘をつき、天井裏から奈々瀬を覗き見することを習慣にしていた・・・。

覗く男に覗かれる女。復讐する男と復讐されると知りながら逃げ出そうとしない女。とにかく奈々瀬と山根の奇妙すぎる関係、そしてこの二人の強烈すぎるキャラクター設定が絶妙。
浅野忠信の独特な口調にも笑わずにはいられないのだがそれよりも美波が凄かった。奈々瀬はとにかく人に嫌われる事が何よりも怖くていつも他人の顔色ばかり伺い、嫌われないように生きている面倒くさい女で、スウェットに眼鏡で化粧っ気無しという外見も「男に誘っているという誤解を与えないため」あえてやっているというようなキャラクターなのだが、どうやら劇中で番上も言っていた通り世の男性方にとっては逆にその方がそそるらしい。
しかしその辺りは同性からしたら理解できないし男ってのは都合のいい事ばっか言うよな、って位のもので、鑑賞中は完全にあずさに感情移入してしまい奈々瀬に苛ついて仕方がなかった。ここまで人を苛つかせる演技が出来るのかと感心してしまった程だ。
「あずさちゃんだと思った☆」のシーンでは小池栄子が般若のような顔をしていたが完全にシンクロしていたと思う。
きっと観る人の性別や性格によって各キャラクターに抱く感想が全然違ってくるんだろうな、と感じた。ちなみに番上みたいな男、私は嫌いです。

で、結局この映画は何が言いたかったのか?
つまるところこの映画はものすごい遠回りをしながらのラブストーリーなのだ。映画は四人のキャストで進んで行くが、エンディングでこれは二人の物語だったのだと気付く。素直に気持ちを伝えられない男と女の、もどかしく面倒くさい物語。人間誰しも持っている醜い部分、嫌な部分をありありと描きながらも、それだから人間って可愛いじゃん、と思わせる本谷節は相変わらずで、やっぱり気持ちいい。
個人的にかなり久々に邦画を鑑賞したので独特のテンポに慣れるまで時間がかかり、途中少し退屈に感じてしまった感はあるが中々笑えたし共感できる所もあったし楽しく観る事ができた。劇場を出るときにはやくしまるえつこの歌うエンディングテーマが頭から離れなくなるのでお気をつけて。

監督 : デヴィッド・R・エリス

出演 : キム・ベイシンガー、ジェイソン・ステイサム、クリス・エヴァンス

総合評価 : ★★★★ 4.0/5

 

 

 
セルラー(Cellular)とは、携帯電話のこと。
主人公の高校教師ジェシカは、ある日いつものように夫と子供を送り出した後、見知らぬ男たちに自宅を襲撃されとある山小屋の一室に誘拐されてしまう。自分が攫われた理由すら見当もつかない彼女は、リーダー格の男に粉々に破壊された電話機の配線を何とか繋ぎ合わせ、ある青年が持つ携帯電話との通信に成功する。
その携帯電話の持ち主であるチャラ男のライアンは、始めはジェシカの必死のSOSも真に受けず適当に受け流していたものの、電話から聞こえてくるジェシカと犯人の男とのやり取りを聞いて事態の深刻さを知る。
犯人達の目的が自分だけでなく夫や子供まで及ぶと知ったジェシカは、ライアンとの通信に最後の望みを賭け、引くに引けなくなったライアンもまた彼女や家族を助けようと奮闘する。しかしライアンの行く手には一難去ってまた一難と様々な困難が待ち受けていた・・・。

「電話」をクローズアップしたソリッド・シチュエーション・スリラーの一種といえばコリン・ファレルの「フォーン・ブース」が思い浮かぶが、どうやら原案は同じ脚本家によるものらしいと聞いて納得。
「通信が切れたら終わり」という状況下で電波状況や電池残量などといった携帯電話ならではのスリルが味わえ、テンポ良く飽きさせない展開で見入ってしまう。「フォーン・ブース」も中々面白かったが結局犯人の動機がよく分からず観賞後にもやもや感が残ったので、その点ではこちらの方がすっきりとエンディングを迎えることができて好み。両作品とも90分前後という短尺でうまくまとめてあるのも◎。
生物教師の女性が何で電話線の修理なんてできたのか、とかどうやってライアンの携帯に連絡できたのか、等と設定に突っ込みどころは多々あるものの、ストーリーのテンポの良さでそのあたりはあまり気にせず最後まで観ることができる。
しかしまあジェイソン・ステイサムはいつも通りジェイソン・ステイサムなんだけどこの人コワモテの割には悪役がしっくりこないと思うのは私だけ?周りに従えてたのがガタイのいい男ばかりだったから身長の低さが目立っててちょっと可愛く見えちゃったよ。
最近の作品ではやたらとフェミニストな印象が強いので女に容赦ないジェイソンはちょっと新鮮。まだアクション方面で活躍する前の作品だがライアンと争うシーンでの体のキレの良さはさすが。

短尺なので軽く見られるシチュエーション・スリラーとしてはエンディングもスッキリとした感じなのでおすすめ。ライアン役のクリス・エヴァンスの肩口にあった変な漢字のタトゥー?が何よりも謎でした。氏?

 

監督 : ニキ・カーロ

出演 : ジェレミー・レニエ、ギャスパー・ウリエル、ヴェラ・ファーミガ

総合評価 : ★★★★☆ 4.5/5

 

 

 
舞台は19世紀フランス、ブルゴーニュ地方。あるシャトーの管理する葡萄畑で働いていた小作人のソブラン(ジェレミー・レニエ)は、いつか自分自身のワインを造ることを夢見ていた。そんな彼の前にある夜、美しい天使が現れ——。

全く前知識無しで鑑賞したのだがどうやら原作はニュージーランドの小説らしく、てっきりフランス語かと思いきや全編英語だったので驚いた。
ワイン造りやその味わい等に関する専門的な蘊蓄などは控えめで、物語としては主人公のソブランの辿る人生の浮き沈みに焦点を定め、そこにワイン作りというものを引き合いに出しながら人生とは、そしてワイン造りとは何たるかということを描いている。
それだけならおそらく退屈な作品になっていただろうと思うのだが、彼が物語序盤で出会うギャスパー・ウリエル演じるザスという天使がこの映画のいいアクセントになっていて飽きさせないつくりになっていると感じた。
ザスはソブランにこれから毎年同じ日に同じ場所で会おうと約束を取り付け、一年目は恋の悩み、二年目はワイン造りの悩みに乗るなどと天使にしてはやたらとフランクな面を見せる裏腹、ソブランがどん底に落ちた時には救いの手も差し伸べず放置するという無責任さ。
その理由については物語中盤で明らかになるのだがこのあたりの皮肉のきいた描写が面白い。ただこの辺りは敬虔なキリスト教信者の方には少し受け入れがたい設定なのかもしれないが。

それにしてもこのザスがぶっ飛びすぎてて面白い。ギャスパー・ウリエルは天使というハマり役でその美しい顔立ちと体つきをこれでもかというくらい見せつけてくれるが、いかにも重そうな羽根背負って飛び立つシーンはシュールすぎるし、ソブランに対しては積極的というよりは強引で自己中なくせに変な所でお固いし、そもそもワインについて詳しすぎるし。私が鑑賞した時は周りは年配の方が多く、誰も笑っていなかったが正直何回か吹き出しそうになるシーンがあった。
後から考えれば彼がソブランに近づいた理由なんてものすごく単純なものだったんだろうな、と想像するだけで笑えるのだが、美しい男性と男性が寄り添っていれば万事OKとは言わずとも8割方は満足なのでそれはそれで(その辺り直接的な表現とかは無いので苦手な方も安心して頂きたい)。最後に彼がソブランにする「頼み事」の内容もまたアレな感じで・・・。とにかくザス、笑いをありがとう。

さてザスの他にはソブランを取り巻く2人の女性、妻であるセレストとシャトーの管理者亡き後その後継者となったオーロラも重要な役どころ。ソブランがシャトーの管理者でありながらワインに関して全く無知であったオーロラに、ワインとは何たるかを教える時の官能的な描写が美しい。オーロラを演じたヴェラ・ファーミガは上品な美しさで存在感が光っていた。
シャトーの葡萄の木が病気で全滅してしまった時にソブランとオーロラがそれぞれどうしようとしたか、そこでの両者の考え方の違いが物語の軸になっていて、このあたりは宗教観念の薄い日本人には理解し難いかもしれないが、オーロラの芯の通った生き方に私はとても感銘を受けた。ただ、オーロラがとても魅力的に描かれている反面、妻のセレストにはあまり良い所がなく少し残念だった気もする。

人生(ワイン造り)には良い時も悪い時もある。ただ、悪い時から目を逸らして逃げようとせずに、ちゃんと向き合って苦境を乗り越えてこそ真の喜びが待っている。
そういった人生観、宗教観に訴えるようなメッセージを伝えてくれる真面目な作品でもあり、観る人にとっては笑える?作品でもあり。締めくくりもすっきりとしているので、作品としての満足度は非常に高かった。
特にギャスパー・ウリエルのファンの方、お見逃しないように。