Strategy of…

Archive for 3月 2011

hereafter

 

監督 : クリント・イーストウッド

出演 : マット・デイモン、セシル・ドゥ・フランス、フランキー・マクラレン

総合評価 : ★★ 2.0/5

 

 

名匠クリント・イーストウッドの最新作ということで、当然ながら大きな期待を胸に寄せて劇場に足を運ぶ人は少なくないだろう。例に漏れず私もその一人であったが、残念ながら少々期待はずれという結果に終わってしまった。

メインの登場人物は3人。
マッ ト・デイモン演じる霊能力者のジョージ、旅先で遭遇した津波によって生死の境を彷徨ったフランス人キャスターのマリー、そして双子の兄を事故によって失っ てしまったイギリス人の少年マーカス。3人のそれぞれの物語がオムニバス形式で描かれ、やがて1つの点に収束していくという展開だ。
冒頭、マリー が津波に襲われるシーン。このシーンは本当に素晴らしく、一体どうやって撮影しているんだろう!?と画面に釘付けになった。しかし楽しめたのはここまで で、そこからはテンポの悪いストーリーが延々と続いていく。ジョージが霊能力者としての力を手に入れた理由やマリーの自分勝手な行動の一つ一つに全く説得 力が無く、イライラと眠気ばかりが増していく中盤。双子のストーリーに関してはまだ普通に見ていられたことと、電車のシーンで大きい音が鳴ったためなんと か眠りの世界に落ちなかった事に感謝したい。

全く引き込まれないストーリーに耐えながら終わりの時を待ち続けていたら、衝撃のあのオチ・・・。 一体何だったというのか。マイノリティ同士の慰めあいか?「僕らの気持ちなんか誰もわかってくれないのだから、わかってくれる人とだけ仲良くやっていけれ ばそれでいいよ」って事?死後の世界でなく、今生きているこの現世を見ていくことが大事だと伝えたかったのなら全くの逆効果だ。結局あのラストシーンで何 かが変わったとは私には思えなかった。

グラン・トリノ程の名作を期待していたわけではないにせよ、今作は酷すぎた。いっそ中盤を全部端折ってラストシーンからジョージとマリーの安いラブストーリーでも作った方が楽しめたような気さえする。イーストウッド自ら手掛けたという劇中音楽だけは独特の安らぎを与えてくれて良かったが。

kingsspeech

監督 : トム・フーパー

出演 : コリン・ファース、ジェフリー・ラッシュ、ヘレナ・ボナム=カーター

総合評価 : ★★★★☆ 4.5/5

 

 

まずレビューの前に、アカデミー賞4部門受賞おめでとうございます。
特にコリン・ファースの主演男優賞初受賞は嬉しかった。シングルマンの時と同じくらい・・・いや、それ以上に素晴らしい演技を今作では魅せてくれた。

さて、アカデミー賞以外の賞レースでも多くの栄冠を手にしている話題の今作は、現在の英国女王エリザベスの実父であるジョージ6世が即位するまでのドラマを描いた王室ドキュメンタリー調の作品である。
そして今作でスポットが当てられているのはジョージ6世が幼い頃から悩まされたという吃音症。いわゆる「どもり」だ。多くの民衆たちに向かってスピーチをすることが公務である王室において、それは非常に重要な問題だったのである。
あ らゆる手を尽くしても良くなる兆しが見えない事にジョージ本人が半ば諦めかけていた時、妻のエリザベスが街で見つけてきたのは風変わりな役者志望のオース トラリア人だった。ジェフリー・ラッシュ演じるそのライオネルという男は、規格外としか言えない数々の突飛な方法でジョージの吃音症を、彼の内面から治そ うとする。始めは自分のことを家族しか呼ばない名前で気易く呼んでくるようなその男を当然の如く嫌悪したジョージだったが、いつしか治療を通じて二人の間 には友情が芽生えていく。

吃音だけでなく癇癪持ちだったり実は口が汚かったりと欠点だらけの人間くさいジョージと、いつも飄々と していて自分の息子たちからも呆れられているような憎めないライオネルの、思わずくすりとしてしまうようなやりとりが見ていて微笑ましい。つい言い過ぎて 喧嘩して反省して仲直りして・・・と、まるで小学生のようである。しかし、王室の人間であるジョージにとってそんな気の置けない存在がいる事は これ以上ない救いだったのだろう。そんな彼を陰ながら支え続ける妻を演じたヘレナ・ボナム・カーターも好演。メインの3人に関してはいずれも引けをとらな い素晴らしい演技を見せてくれていた。

本作のラストでジョージは、即位して初の大仕事となるスピーチに挑む。いよいよドイツとの 戦争が目前に迫ってきた中で、国民を鼓舞するためのスピーチだ。想像もつかないような重圧があったと思うが、スピーチをする彼の前にはライオネルが立って いた。彼のスピーチはそれを聴いている民衆に向けてのものでもあり、親しい友人に語りかけているものでもあったのだ。
このシーンを見て、人の上に立つ者の在り方とはこうあるべきなのだろうと強く感じた。自分と相手との間に線を引くのではなく、一歩づつ歩み寄っていくことが大切なのだと。
スピーチを終えたジョージが纏っていたのは、もはやまぎれもない王者の風格だった。そしてそこで初めて、ライオネルはジョージを今までと違う呼び方で呼ぶのである。うまい、実にうまい。エンドロールが始まった時には、心の奥から暖かくなるような、心地よい涙が流れていた。

派 手な脚色がしにくいようなデリケートなテーマでありながらも、ここまで一本の映画として楽しめる作品にしてくれたキャスト、スタッフの方全員に拍手を送り たい。衣装や小物の一つ一つ、また音楽に関しても素晴らしい仕事ぶりだった。アカデミー賞受賞も納得の珠玉の作品、是非劇場で。