Strategy of…

Archive for 9月 2010

 

監督 : ジェーン・カンピオン

出演 : アビー・コーニッシュ、ベン・ウィショー、ポール・シュナイダー

総合評価 : ★★☆ 2.5/5

 

 

 
25歳という若さでこの世を去った英国の天才詩人、ジョン・キーツ。
これは彼と彼が愛した一人の女性、ファニー・ブローンとの胸が締め付けられるような甘く儚い初恋を描いたラブストーリーだ。

18世紀のイギリスが舞台となると「プライドと偏見」が思い出されるが、
この作品も右に引けを取らず素晴らしい映像美で楽しませてくれる。
ポスターにもなっているラベンダー畑のシーンや、室内での場面でカーテンから優しく漏れてくる光などはため息が出るくらい美しい。
衣装も美しい。ファニーが自分で縫製して身に纏う鮮やかで多少奇抜なドレスとは対称的に、彼女以外の女性には色彩を抑えめにした地味な印象の服を着せることで彼女のアイデンティティが浮き彫りになっている。

ジョン・キーツを演じるのは「パフューム」で一躍有名になったベン・ウィショー。
詩人という繊細な役柄がこれでもかというくらいにハマっていて、今作も相変わらずの存在感だ。
本国では映画以外にもTVドラマや舞台など広いジャンルで活躍している彼だが、日本で彼の演技が堪能できる機会はなかなかないので(あまりにも存在感がありすぎて、脇役で使えるような俳優さんではないだろうなと思う)スクリーンで彼を見ることができるのは非常に嬉しい。
私が好きなのは彼の台詞以上に物を語る視線の演技と、低音からひらりと高音へ流れながら繊細な心の動きを反映させる彼の声。そのどちらも今作ではお腹いっぱい楽しむ事ができる。
ジョン・キーツの詩を彼の声で聞く事ができるというのは何と言う贅沢だろうか。

しかし1つ残念なのは、きっと英語が堪能な方ならこの映画の真髄を楽しめたのだろうな、という点。
「詩」というものの芸術性とはその内容ではなく、言葉の響きの美しさ、韻の踏み方、そういった要素の方が重要で、日本語の翻訳ではその詩の持つ魅力を十分に理解することはできないだろう。
残念ながらそこまでの英語力が私に備わっていないので、この作品の重要なパートである「ジョン・キーツの詩」という部分があまり伝わってこなかった事が悔やまれる。

そしてヒロイン役のアビー・コーニッシュ。
病弱で儚げなキーツとは対称的な健康的で若々しく、美意識の高い女性を演じているのだが・・・うーん、レビューでの評価も総じて高いのだがどうも私には合わなかったみたい。あまり魅力を感じられなかったのが残念。
見た目ではなく言動や行動が、あまり好きになれなかったんだよなあ。若さや初恋に対する衝動的で不安定な感情表現はよく出てたとは思うんだけど、あまりの空気の読めなさに少し苛つく場面もあり・・・。
身分の差が2人の壁になる時も、口だけで結局行動力が伴わない。「プライドと偏見」のエリザベスのような「芯の強さ」がもう少し描かれていたらもう少し魅力的に見えたのかも。
結局キースが何故ここまでファニーに惹かれたのか・・・という点が消化不良に終わってしまったのは、非常に残念であった。

あとは場面展開が少々突飛なシーンが多々あったのが気になったかな?抑揚がないストーリーなのでちょっと途中眠くなってしまったり・・・。
ベン・ウィショーのファンとしては十分楽しめたが、詩人ジョン・キーツについての造詣も深くない私にとってはまだ早く、ちょっと贅沢が過ぎたのかな?という印象で終わってしまった。
ファニーの妹のトゥーツと、大きな猫がとても可愛らしくて癒された。猫とウィショーの2ショットの可愛さはもう、ごちそうさまです。笑

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監督 : フランク・オズ

出演 : マシュー・マクファディン、アンディ・ナイマン、アラン・テュディック

総合評価 : ★★★★☆ 4.5/5

 

 

 
葬式。それは故人を弔い、送り出す為に普段は顔を合わせないような親戚が一堂に会する行事であり、他人同然のような人々がいきなりわらわらと集まったりするものだから、得てして物事はスムーズに進まないのは万国共通なのだろう。
そして葬式において長男にかかる負担やプレッシャーの大きさもまた然り。

ハウエルズ家の長男ダニエル(マシュー・マクファディン)は、父親の葬儀のための準備に追われていた。しかし、彼はいくつかの問題を抱えていた。その1つは長男という立場故に弔辞を読み上げなければならない事。しかし、彼の弟であるロバートが有名な小説家である事から周囲は当然ロバートが弔辞を読むものと期待していたため、ダニエルの気分はどんどん滅入って行く。
他にも自分たちの引っ越し代の事や葬儀代の事など問題は山積みだった。しかし親戚一同が集まり、葬儀が始まってもその問題は解決するどころか、新たな問題が次から次へと発生していくのである。

まず集まってくる親戚の顔ぶれがこれでもかという位のくせ者ばかり。
弟のロバートは有能な小説家ではあるが、見栄っ張りで後先を考えない。NY在住で飛行機で実家に戻って来た彼は有り金のほとんどを飛行機のファーストクラス代に当ててしまったため葬儀代を払えないと抜かす。
ダニエルの従妹のマーサは父親に結婚を認めてもらうため、婚約者であるサイモンを連れてやってくる。しかしサイモンはマーサの弟、トロイが持っていた「安定剤」のせいでとんでもない事になっていて、大騒動を引き起こしてしまう。
そんな濃い顔ぶれの中でダニエルは見覚えのない一人の男を見つける。そしてその男が語った亡き父親のある「秘密」とは・・・。

とにかく全編通してブラックジョーク満載なので、「葬式をネタにするなんて何事!」と思われるような方には絶対おすすめできないし、見る人を選ぶ作品だとは思うが、息もつかせぬほどの笑いの連続かつ心が温まるようなラストシーンで非常に満足度の高いコメディ作品だった。
めでたしめでたしと思わせておいて最後の最後に毒を残しておく展開もさすが。
アメリカのコメディとは全く違うタイプのコメディなので、アメリカンコメディが受け入れがたい人にも試してみて欲しい。
とにかくサイモンのどう見ても本当にトリップしてるとしか思えないぶっ飛んだ演技が最高!他のキャスト陣も性格、ルックス共にインパクト大で、一人として埋もれてしまうような人物がいなかったのも良かった。トロイ役のクリス・マーシャル、一目見たら忘れられない強烈な悪人顔で好き。

コメディなので詳しい内容にはあまり触れないでおくが、もしDVDでご覧になるなら特典映像のNG集がまた傑作なので是非お見逃しのないように。
ダニエル役のマシュー・マクファディンは「プライドと偏見」のダーシー役を演じていた彼(同作品のレビュー、誤って消してしまいました・・・)。「プライドと偏見」と同じく今作でも、舞台が葬儀なだけに本編では殆ど感情や表情をあまりあらわにしない役柄だったのだが、NG集での彼の笑い上戸っぷりに愕然!
いや、笑っちゃいけないんだけどね。
NG連発なんだけどね。
ハワード役のアンディ・ナイマンと2人して笑いのツボにはまっていく様子に爆笑。監督も休む暇を与えずテイクを重ねるものだからツボから抜け出せずにますます深みにはまっていく様子が面白くって仕方ない。
サイモンの知られざる孤軍奮闘っぷりが伺いしれたりと見所満載な上に、この特典映像にもしっかりとオチがついているという抜け目のなさ。ラストのアンディ・ナイマンの機転に嫉妬。

ちょっとおかしいお葬式と謳っておきながら全くちょっとどころではない波乱のお葬式を、笑いを堪えながらシリアスぶって演じきった俳優陣に拍手を送りたい。エンドロールではそんな彼らの笑顔を拝む事ができるという、冴えた演出方法も良かった。
この物語の影の主役でもある故人がどのような人物だったのかについては、劇中ではほとんど語られることはないが、ダニエルが「完璧ではなかったけど、いい人でした」と語った父親がどんな人生を送ってきたのか、想像しながら見るのもまた一興かもしれない。

 

監督 : アレクシス・ドス・サントス

出演 : フェルナンド・ティエルブ、デボラ・フランソワ、ミヒル・ホイスマン

総合評価 : ★★★★☆ 4.5/5

 

 

 
すっっっごく好き!
内容云々よりも感覚的に、これは好き!と思える作品に久々に出会えたことが嬉しい。
某レンタル店ではエロティックにカテゴライズされているが、とてもいい青春映画なのにそれだけで敬遠されそうでもったいない。日本版のはDVDのジャケットも煽り文句もずれてるんだよなあ。

ロンドンのイーストエンドが舞台、あるシェアハウスに住み着く二人の男女を中心とした若者たちの物語。
一人は幼い頃自分を捨てた父親を捜しにロンドンにやって来たアクセルという少年。
彼の悪い癖は、酒を飲むと記憶を無くしいつも違うベッドで朝を迎えること。
ロンドンにやって来てから目覚めたベッドの数は彼の年齢と同じ20で、これから見つける「21番目のベッド」がもうアクセルと一人の主人公のヴェラという少女を繋ぐ。
ヴェラは、元彼との思い出と共にそのベッドマットを捨てた。
過去に執着しない彼女は新しい出会いをするものの、振られたばかりで親密になりすぎることに躊躇した彼女は、相手の名前も電話番号も聞かないまま奇妙な関係を築いていく。

アクセルとヴェラ、この二人の物語はある時点まで殆ど交差する事なく進んでいくが、二人ともどこか似ているところがある。
ただ自堕落な若者のようにも見えるが、過去を忘れ去る事に躊躇いがないところとか、潔くて好きだ。
一歩踏み出すことを恐れ、向き合うべき現実に背中を向けて逃げているのも同じ。
それでも決して後ろを振り向かず、過去に縋らないところに好感が持てるのかもしれない。
なんともリアルな現代の若者の心情を描いたこの二人を見ていると、どうしようもない愛しさを感じずにはいられなかった。

カメラワークが全体を通して各人物の細かい表情の変化など、パーソナルな部分をメインに捉えている点でも感情移入しやすい。
そして映像や音楽、ファッションのセンスが物凄く好みで、まさに現代のロンドンカルチャーを一気に楽しめるという感じ。サントラも凄く欲しくなる。
アレクシス監督、74年生まれだから36歳位?監督としては若手だとは思うが本当にフレッシュな感性をしていると感じた。ちなみに監督自身もこの作品に出演していたりする(しかも結構ちゃんとセリフもしゃべっていたりする)ので、是非注目して頂きたい。ヴェラがベッドマットを捨てる時に手を貸してくれるアンニュイな少年を演じていたが、10代でも通じる可愛らしさだった。笑

メイン二人を取り巻くサイドキャストもみんな魅力的。
アクセルが目覚めた部屋の主でライブハウスのオーナーをしているマイク(イド・ゴールドバーグ)は、以前一度失敗したスカイダイビングにずっと未練を感じている。
アクセルに一歩踏み出すきっかけを与えたのは彼であり、また彼自身が踏み出すきっかけを与えたのはアクセルだったのかもしれない。
傷心のヴェラに声をかける男性、結局名前も明かされない彼を演じるのはミヒル・ホイスマン。
見た目もイケメンだが中身もめちゃめちゃいい男。
出会い頭に「私、スチュワーデスなの」と大嘘をつくヴェラに対して「僕、空港でX線技師してるんだ。だから君に見覚えがあるのかも」という返し。この一言でもう惚れたよ・・・。
イドもミヒルもタイプの違うイケメンでとても目の保養になった(アクセル役のフェルナンドも、たれ目の大きな瞳が印象的で可愛い)。

ラストシーン近くでようやく言葉を交わすアクセルとヴェラの物語は、やっと出会ったか、と思わせておきながら意外なようで実に彼ら「らしい」方向に進んでいく。
それぞれ別の場所で今まで踏み出せなかった一歩を踏み出して迎えるエンディングは、実に爽やかだ。
アメリカの青春映画とは全く違うタイプの新しい青春映画の1つとして、特にUKロックが好きな人などには是非見て頂きたい作品。
アレクシス監督の作品、他のも見てみたいなあ。

[Review]BECK

Posted on: 09/09/2010

 

監督 : 堤幸彦

出演 : 水嶋ヒロ、佐藤健、桐谷健太

総合評価 : ★★★★ 4.0/5

 

 

 
「BECK」もとうとう実写化、という話を聞いて「またか・・・」と思いつつ、今回実写映画化されるのが10巻までの「グレイトフル・サウンド」というフェスに出演するまでのストーリーだと知って実は少し期待していた。1つの映画としてまとめるのには最適な挫折あり、衝突ありのサクセスストーリーであるからだ。
そして期待半分、不安半分で観に行ってきたが・・・いやー、やられた。映画の完成度やキャストの演技などとは全く別の領域でやられてしまった。誰が仕組んだのかと勘ぐってしまうくらいのお膳立て具合。完璧に、自分自身の青春時代がフラッシュバックしてしまい序盤の何でもないシーンから既にこの映画に囚われてしまった。という事で、今回のレビューにはいつも以上に個人的な感情が入り交じってしまうことを先にお詫びしておきたい。

ストーリーの大筋はほぼ漫画に忠実に進んで行くものの、BECKのメンバーである5人と水嶋ヒロ演じる竜介の妹である真帆にフォーカスを当てて作られているため漫画にあった細かいエピソードはいくつか端折られている。それでも140分を超える長い尺ではあるものの、テンポの悪さも感じさせなかったし脚本としては良かったと思う。ただカンニング竹山演じる斉藤さんが意外といい味を出してたのでもう少し出番があっても良かった気もする。
物語としては確かに単純ではあるのだが、きっと私のように昔バンドをやっていた人や今もやっている人にとっては映画の中の何気ない1シーン1シーンがリアルに感じられるはずだ。言葉以上に通じ合えるセッション。初めてステージに立つときのあの言いようもない感情。本当に心を震わせる音、歌との出会い。そしてメンバーとのすれ違いや、自分の居場所を見失った時の葛藤・・・。
加えて撮影場所が横須賀という、自分自身も高校時代を過ごした見知った場所だった事でもう完全にノックアウト。駅前の風景や大通り、ライブハウス「LIZARD」(これは横浜)と、ノスタルジーに飲み込まれるかと思うくらいの演出にはもう勘弁してくれと叫び出したいくらいだった。オアシスとレッチリという選曲も含めて完膚なきまでのボディブロー。堤監督、ずるいです。

キャストも皆熱の入った演技を見せてくれていたのだが、中でも桐谷健太は別格だった。他のメンバーがやはりどうしてもコユキや竜介を「演じている」と感じさせてしまう中で彼だけはもう、「千葉」が漫画からそのまま出て来てそこにいる、と思わされるような圧倒的な存在感だった。最初の登場シーンで竜介に金を返せと絡み「女紹介してやるから」と絆され立ち去る瞬間に見せたあの下衆い笑い方!一瞬でただごとではないと感じさせられた。そして兵藤軍団をボコボコにした後の笑顔や圧巻のラップ、バンドでの立ち位置を見失い、疎外感を感じる姿・・・一瞬も目を離せなかった。桐谷健太の本領発揮、間違いなく一番輝いていた。原作でも一番好きなキャラクターだったので喜びもひとしおだった。

最後に問題のコユキの歌声のシーン。
きっと原作を読んだことがある人は、彼が歌う場面が出てくるごとに毎回想像しただろう。それぞれの想い描く「天使の歌声」を。そもそも誰もが感動するような奇跡の歌声など漫画でないと表現できないだろう。だからこそ、この映画はそれ以上の答えは出さなかった。確かにあれだけ引っぱっておいて、という気持ちもわからないではないが、あれ以外の選択肢はありえなかったと私は思う。答えを出してしまったら、想像する楽しみが奪われてしまうのだから。

最後のフェスでのライブシーンは座って鑑賞しているのがもどかしくなるくらいの迫力だったし、これは是非とも映画館の大音量で楽しんで頂きたい作品。どちらかというと原作を読んだ事がある人の方が作品に入り込んでいきやすいのではないかと思う。キャスト陣の演技で所々残念に思うシーンはあったものの、青春ムービーとしてはかなり完成度の高い良作だと言えるだろう。

あと、序盤でちょっとだけ出て来たコユキの高校の軽音部の演奏のイタさが最っ高。いたいた、ああいう奴ら・・。

 

監督 : オーレ・クリスチャン・マセン

出演 : トゥーレ・リントハート、マッツ・ミケルセン、クリスチャン・べルケル

総合評価 : ★★★★ 4.0/5

 

 

 
第二次世界大戦中のナチス・ドイツの台頭は、ドイツ以外のヨーロッパ諸国に対しても様々な影響を与えてきたが、この「誰がため」の舞台であるデンマークもその中の一国であった。ただしデンマークのそれは諸外国と比べると少し異質で、ナチスはデンマークを支配下には置いたものの、ヒトラーがデンマークを同じゲルマン民族の国とみなしていた事からかその支配は他国と比べると比較的緩く、デンマーク政府も保護占領という形で存続していた。
しかしこの曖昧な状況がデンマーク国内での分裂を生む事になる。反ナチ派が当然存在するなかで、デンマーク人でありながらナチを支持するというデンマーク・ナチと呼ばれる一派も存在していたのだ。
そしてそのようなゲシュタポやナチに協力せんとする売国奴を粛正することを目的にしたレジスタンス組織もまた存在した。今作の原題「Flammen og Citronen(フラメンとシトロン)」とはそういった組織に所属していたある2人の男のコードネームである。

トゥーレ・リントハート演じるベント(コードネーム・フラメン)は23歳の若者ながら確かな腕を持った殺し屋であり、上司であるヴィンターの指令通りに暗殺をこなしていた。そして彼の相棒であるマッツ・ミケルセン演じるヨーン(コードネーム・シトロン)もまた、家族の為に組織に所属することを選んだ。しかし家庭を持つ身であるヨーンはベントと違い、人を殺す事に苦悩を覚えていた。

祖国のためという確固たる信念のもとで任務をこなしてきた彼らだが、やがてあるターゲットとの接触を機に組織に対しての疑問が芽生える。そしてベントが恋におちたケティという女性の存在もまた、彼らの疑念を膨らませることになる。一体誰が味方で誰が敵なのか?自分たちがしている事は正しい事なのか?この「誰がため」という邦題は、この映画の本質をまさに表していると言えよう。

ただ、疑心暗鬼に陥り何が正義かもわからない中でも、ベントとヨーンの2人にとって相棒の存在だけは最後まで信じられる唯一の存在だったのかもしれない。彼らの最期は決して幸せなものではなかったが、共に眠りにつくことができたのは彼らにとっての最後の救いだったのだと思いたい。

メインキャストの二人は今作で共に素晴らしい演技を見せてくれるが、ヨーン役のマッツ・ミケルセンには特に圧倒された。彼が苦悩を抱える姿やある転機によって別人の如く変貌していく様を巧みな感情表現で演じている。トゥーレ・リントハートも、実年齢とはかけ離れた23歳の若者を違和感なく好演。個人的には戦争というものに対して、そして自分の今までの行いに対しても反旗を翻したかのようなベントの最期に胸を打たれた。

無駄な音楽を使わず、台詞も最小限で淡々と物語を見せて行く演出方法は「カティンの森」と同様に実話であるというリアリティーをこちらに投げかけてくる。ああ、彼らは確かに存在していたのだ。例え歴史を変える程の力はなかったとしても。
全体を通して暗く重く救いのない話ではあるが、是非ともフラメンとシトロンという二人の男の生き様を多くの人に知ってもらいたいと感じた。

 

監督 : アンディ・カディフ

出演 : マンディ・ムーア、マシュー・グード、マーク・ハーモン

総合評価 : ★★★☆ 3.5/5

 

 

 
「情愛と友情」に引き続きマシュー・グード出演作レビュー第2弾。

この「チェイシング・リバティ」は、自由を夢見る大統領の娘アナが家族とのヨーロッパ旅行中に大人数の護衛たちから逃亡し、偶然そこに居合わせ逃亡の手助けをしてくれたベンという男性と共にヨーロッパ中を駆け巡り、一緒に行動するうちにやがて2人の間に愛が芽生える・・といったラブコメディ。

今作はとにかくベン役のマシュー・グードが素晴らしくハマり役で、旅の道中で自由奔放なアナに振り回されつつもいざという時は何としてでも彼女を守リ抜く。それはある使命があるからなのだが、23歳という若さ故に彼女に惹かれていく自分の気持ちを抑えられず、使命と愛情との間で葛藤する姿にはときめかずにはいられない。コミカルな演技もやけにハマっているし、特徴のある低い声もとってもセクシーだ。
アナ役のマンディ・ムーアも、凄く美人という訳ではないのだが愛嬌がありキュートなので、キャスト面では非常に満足度の高い作品だった。

ストーリーとしては王道ラブコメの域を出ていないし、ラストもご都合主義のハッピーエンドという感じなので、ヨーロッパ縦断の旅の風景などを楽しみつつ気楽に観れる一本。マシュー・グードのファンの方には、彼のスラリとしたスマートな長身からはあまり想像もつかない位鍛え抜かれた上半身も見る事ができるという点からもおすすめしたい。

 

監督 : ジュリアン・ジャロルド

出演 : マシュー・グード、ベン・ウィショー、ヘイリー・アトウェル

総合評価 : ★★☆ 2.5/5

 

 

 
この作品は「情愛と友情」というタイトルだが、原作は「Brideshead Revisited(ブライズヘッドふたたび)」という英国文学である。原作は未読であるが、これまでにテレビドラマ化もされた程本国では人気のある小説のようだ。

物語は、主人公のチャールズが大学生活でセバスチャンという青年貴族に出会うところから始まる。彼は他の青年貴族たちと違い、身分の差を気にすることなくチャールズと接した事から二人はすぐに打ち解ける。そしてセバスチャンは大学が夏休みに入ると、大怪我を負ったとの嘘の電報をチャールズ宛に入れ、自分の暮らしているブライズヘッドの屋敷にチャールズを招く。そしてその屋敷でチャールズはセバスチャンの美しい妹や敬虔なカトリック信者である彼らの母親と出会うことになり、やがてその出会いがセバスチャン一家の崩壊を招くことになる――。

テレビドラマとしても放送された程ボリュームのある内容をぐっと二時間程の映画にまとめたため、展開がやや強引な印象を受けた。物語の中でどこかに焦点が合っていればよかったのかもしれないが、特に盛り上がるポイントもなく淡々と終わってしまったという感じ。良くも悪くも英国文学らしいのかもしれないが。
ただ、彼らが過ごすブライズヘッドの屋敷の外観や内装、広大な庭園の美しさや休暇中に訪れるヴェネチアの風景など、映像の美しさは文句のつけようがないくらい素晴らしかった。

同性愛者であり、友人であるチャールズの事を愛してしまうセバスチャンを演じるのはベン・ウィショー、「パフューム ある人殺しの物語」で殺人犯を演じた彼である。パフュームの時にも感じたが、細かな視線の動きといい動揺したときの小さく震える声といい、繊細な演技をさせたら右に出る者はいないのではないかと思わせる希有な俳優だ。今作でもその魅力は遺憾なく発揮され、抜群の存在感を放っている。だからこそ中盤以降殆ど出番が無くなってしまった事も残念な点のひとつだった。

そしてセバスチャンに愛されながらも彼の妹ジュリアに惹かれてしまうチャールズを演じたのはマシュー・グード。彼を目当てに観た作品だったのだが、この役は少し合っていなかったかもしれない。チャールズという男はセバスチャンとの友情もジュリアの愛情も、そして広大なブライズヘッドの屋敷さえも我が物にせんとする腹に一物ある人物だと思うのだが、彼の滲み出る人柄の良さ故かその辺りの思惑が見ている側にあまり伝わってこなかったのがもったいなかった。人間関係が酷似している「青い棘」のハンスばりにとは言わないが、もう少ししたたかさを出しても良かったかもしれない。

この作品で彼らの関係を引き裂く主な原因として描かれているのが宗教問題なのだが、この点も日本人には理解しがたい要素のひとつだろう。敬虔なカトリック信者である母親の思惑が最後まで彼らを(特にジュリアを)苦しめることになるが、このあたりは文化の違いというものを割り切って見るほかないのかもしれない。

映像の美しさ、英文学の雰囲気を楽しむという点では良いかもしれないが、ひとつの映画としてのまとまりに欠ける印象。キャスト目当てに(特にベン・ウィショーのファンであれば)観るには良いかも。